応接室の黒いソファーで黙々と仕事をこなすヒバリと、その隣に腰掛けているあたし。それは普段と同じ当たり前の光景。 そう、当然であり必然であるそれは、例えるなら魚にとっての水のような、動物にとっての空気のような、無いと命を失ってしまうモノ。 ココに居ないと息が出来ないのに、ココに居ると胸が痛くて、死んでしまいそうに苦しい。あぁ、何て、矛盾に満ちた世界。 「ねぇ、何ため息ついてるの?」 気が付くとヒバリの眼はあたしを捉えており、甘い歓喜の痺れと、鈍い痛みが胸に沸き起こった。 「ため息、出てた?」 「うざいくらいにね。…僕の質問に答えてよ」 眼を細めたヒバリにあたしは慌てた。 何を考えているのか分からなくて、言葉を間違えたら嫌われてしまいそうだ。 「世界の矛盾について考えてた」 「何、ソレ」 「世界には確固たるモノなんてきっと無いんだね」 「ふぅん。はそう思うの?」 ヒバリの口端が上がった。 あれは、馬鹿にしている、見下している、嘲笑している、自信に満ちた、表情。 チリリと音を立てて胸が痛んだ。 思わず手で胸元を押さえてみたところで何の意味も成さない。 息苦しくて、口を開けて空気を貪るあたしのこの姿は、水中で口をパクパクさせている魚みたいだ。(あの姿はなんだか疲れそう。あたしも疲弊していくのか) 「何で、泣くの?」 いつの間にかヒバリとの距離が無くなっていて、ヒバリの手があたしの頬を撫でた。次に降ってきた冷たい唇は、柔らかくて、有り得ないほどに優しい。そして、涙の味がした。 「ヒバリ…」 この感覚は何? 痛くて、苦しくって仕方ないのに、それを手放したくなかった。 「痛いよ」 この気持ちを何と呼べばいい? もう一度降ってきたキスは、ああ、あたしを殺したいのか。 「大丈夫、多分痛い思いはしないよ」 それは以前にもくれた言葉。 分かってる解かってる。その言葉の意味でさえあたしとアナタじゃ最初から食い違っていた。 「」 だってほら、あたしにかかるアナタの重みでさえ、直結するのは胸の痛み。 「ヒバリ、」 この甘い痛みを”愛しさ”と呼ぶのなら、あたしは―――…
(世界には矛盾なんて無い。あるのならば、それはあたしとアナタのこのズレ)
どうして君は、僕の言葉を信じてくれないの |