だって誰かが言ってた。 恋は切なくて苦しいものだって。痛くて痛くてどうしようもないから、それがいやな人はしちゃいけないんだって。 だから、だから私は、ずっとずっと高いところに運んだの、私の“愛”を。誰にも、私にだって届かない所へ。 それはもう、きっと消えてなくなってしまったんだと信じてた。もしくは、キレイなピカピカ光るお星様になったんだと。 「・・・っていう素敵なお話」 「へぇ、それはくだらない妄想だね。精神科行ったら?」 「ひどっ」 だけど、もう分かってる。高いところに在るはずの私の“愛”を今はあなたが持ってること。 痛いし苦しいし、どうしようもないね。私の心臓はあなたが握ったも同然よ、ハニー。 「雲雀、心臓が痛い」 「内科も必要みたいだね」 「息も苦しいの」 「・・・・・・」 「雲雀のせい、だよ」 雲雀がめんどくさそうにひとつ息を吐く。きゅうっと鳴って胸が痛んだ(気がした)。それは紛れもない被害妄想。そして、切実な願いだ。 雲雀は何も話さない。私も何も言わない。訪れる沈黙。加害者と被害者の空間。いつもと違う居心地の悪い沈黙。どちらの方が気が楽かといえば被害者。そしてそれは私のほうだ。だって雲雀のせいなんだもん。 雲雀がまた息を吐いた。きゅうって鳴った。ほら、痛い。 恋なんかしたくない、したくなかったのに。 「、君は一体何がしたいの?」 「・・・・・・」 「聞いてるの?僕が質問してるんだ」 「・・・分かんないよ」 今更離されたらそれだって痛い。そっちの方が身を切り裂かれる想いだ。だけどね、このまま持っていられたら真綿で首を絞められるんだよ。 「ね、それだったら一思いにグサリ、のほうが良いかなぁ?」 「意味が分かんないんだけど」 「そこは以心伝心で」 「馬鹿じゃない」 あーもー、それぐらい理解してるよ。以心伝心なんてそれこそ愛があったって無理な話よね。でも雲雀は私の“愛”を勝手に奪ってっちゃったんだから責任とってよ。 「ねー、雲雀、別れよっか」 「やだ。なんでそうなるの」 だって返して欲しい。きっと今度こそピカピカ輝くお星様になるよ。 「痛いから恋なんてしたくなかった」 「は僕のこと嫌いかい?」 雲雀は疑問の形を取りながらも、応えは分かってたんだ。 そう言った雲雀の顔は意地悪そうないつもの笑みを浮かべていたもの。 「知らないよ。雲雀が持ってっちゃったんだから、私は持ってない」 少し苛々しながら応えた。だって、そう言うしかないんだもん。なんで、被害者が加害者に誘導尋問されなきゃなんないのよ。 望みどおりの回答に満足したのか雲雀は珍しく声を立てて笑った。 「そうだね。僕が奪ったからは僕のものだ」 「強奪かよ・・・いや、略奪?」 あぁ、でも再び笑った雲雀は文句なしにカッコいいから、強奪でも略奪でもなんでもいいかと思ってしまうよ。だから、どうか離さないでね。 「略奪愛・・・それもいいかもね」 きっといま、雲雀が持ってるピカピカのお星様を。 (大丈夫。所有物を捨てるほど、僕は無欲ではないんだ) |