席替えをして最悪な席になった。 クラス中の同情を買いながらも誰一人席を替わってくれる筈はなく、あたしは嫌々ながらも(むしろ脅えながらも)その席に甘んじた。だけど意外にもその席は心地良くて、あたしは打って変わってその席が大好きになってしまった。 ・・・のだが。ここ最近居心地が悪いのはこの席を嫌だと思わせた(そしてクラス中同情心を負わせた)原因の人物のせいだ。 泣く子も黙る風紀委員長・雲雀恭弥。 彼こそあたしのお隣さん。恐ろしいということだけ知っていた。 だけど今は笑顔が可愛いこととか、黒い髪が綺麗なこととか、落ち着いているけどあくびをする時は年相応な顔をすることとかも知っている。恐ろしいということも本当だけど、あたしはこの人がそんなに嫌じゃないんだ。 でもね、ここ数日あたしを見てくるのはいったいどーいうことだ? おかげで授業中だって集中できない。 この空間の主役は雲雀君からの鋭い視線で、教師の声もチョークと黒板がたてる音も、教室内の物も人も全部BGMと背景。(あれ、じゃああたしも?) 「ねぇ、さん」 「えっ、・・・な、何?」 背景に、裏方に甘んじていたのにイキナリ舞台に引っ張りあげられて動揺した。 「早くしないと遅刻しちゃうよ」 「は?それってどうゆう・・・」 「ああ、もうしてるのかな」 「ひ、雲雀君、それどうゆうこと?」 「さあね」 結局授業が終っても雲雀君がその真意を教えてくれることはなかった。ただHRの後、去り際に一言。 「これ以上遅れたら噛み殺すからね」 この科白であたしの今日の居残り決定。とりあえず答えを見つけて彼のところに一刻も早く行かなければ。 ああ、雲雀君。主役だからってこんなアドリブはいらないよ。 一人、二人、そしてまた一人と教室からは人が消えてゆく。あたしは相変わらず”答え”なんて解からなくて。そもそも何を考えたらいいのかも分からないんだ。 隣を見れば雲雀君の机があって、青とオレンジの空があって、この空は雲雀君によく似合うだろうなと思った。 「雲雀君か・・・」 何を考えていいのか分からないので彼について考えてみることにする。 強くて、しなやかで、黒が似合って、夕日が似合って。 訳が分からなくて、酷い人で、でも優しいような気がして。 たまに見せる幼い表情が可愛くて、鋭い視線で見つめられると胸が高鳴って、名前を呼ばれるのが嬉しくて、好き。 「好き」ああ、そうか。あたし雲雀君が好きなんだ。 だんだんと大きくなってゆく心臓の音があたしの身体を動かした。 教室から出て廊下へ、階段へ、慣れた道を頭で考えるよりも早く進む。 ハヤク、はやく、速く。だいぶ遅刻をしてしまった。 「雲雀、君」 応接室の前で弾んだ息を整えているとドアが開いて雲雀君が顔を見せた。 「遅かったね。”答え”見つかった?」 「うん、あのね・・・」 雲雀君を見ると彼の眼が真っ直ぐにあたしを捉えている。 今までたくさんの人たちが口にしてきただろうありきたりなこの科白を実際に言うことがこんなに勇気のいるコトだとは思わなかった。 「あのね、あたし雲雀君が好き」 言い終わると同時に、なんと彼はあたしを抱きしめたのだ。 「遅いよ、さん。どれだけ僕を待たせるつもりだったの?」 「うん、ごめんね」 「遅れてきた以上にそばにいてもらうよ」 「うん」 遅刻してしまった、この恋に。 ごめんね。待っててくれてありがとう。これからは一緒に。 |