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強く、強く、抱かれたことがあった。 白くて美しいと思っていた精市の腕が日焼けしていることを知った。 一歩病院内に足を踏み入れると人工的な冷気とともに特有の香りが感じられる。賑わいはあるものの、やはり外とは違う雰囲気。自己完結的で閉鎖的なここは一種のパラレルワールドのようだ。ならばそこに侵入したあたしも、今やそこの住人である精市も同じ姿の別人なのだろうか? 「精市?」 “幸村精市”の名札がかかるその病室に彼は居なかった。 この部屋の窓からは、隣のビルに邪魔をされて空が少ししか見ることが出来ない。彼の居る場所は想像がつく。 彼は何時だって空を見ている。 冷房の効いていない階段を上り、重い鉄の扉を開けた。白く眩しい光に眼を細めると、予想通りベンチに座った精市の後姿があった。 「精市」 「杏花、来てたのか」 「うん。・・・こんなとこ来て大丈夫なの?」 精市の隣に座りながら尋ねると、眉を顰めるのがわかった。(笑顔を崩さないまま眉を顰めるとは器用な奴だ) 「大丈夫だよ。ちょっと抜け出してきただけだから」 「・・・それ、大丈夫じゃないじゃない」 「冗談だよ。ちゃんと許可とってある」 毒気を抜くような笑顔の精市に、あたしは一つ溜息を零してやった。 「こんな時にまで冗談言わないでよ」 「ごめん。・・・でも、本音を言ったらそこから崩れていきそうだ」 「精市…」 「なんてね」 笑う精市。あたしは彼のこの笑顔が嫌いだ。 精市はやっぱりどこも変わっていない。強いところも。全てを一人で背負おうとしてしまうところも。ここが異界だというのなら、前と変わらない精市は迷い込んだ異邦人だ。 指先で触れた精市の体温はやっぱりあたしの良く知るものだった。 「精市、一人で溜め込まないで。部員に言えない事はあたしに言って」 「杏花、おれは本当に・・・」 「頼って、欲しい。あたしに」 おそるおそるゆっくりあたしの手に伸びる精市の腕。 彼はそれを覆い隠す衣の袖を捲くった。現れたのはあたしの知らない腕。 「俺、こんなになちゃったよ」 筋肉が落ち、やせて、あたしの手首を握る力は弱弱しく。 日焼けの落ちた青白い腕。 「戻れるか、不安なんだ。取り戻せるか、不安なんだ」 ネット越しの敵、声援、自分の呼吸、仲間達――… 「俺は――」 「精市、みんなあなたを待ってる」 あなたの居場所は変わることなくあり続けるから。 失ったものも、手に入れるはずだったものも、きっとずっと、そこにあるよ。 「――ああ」
日焼け
(それは彼らが共有した聖痕) |