歌の1フレーズにアイツを思い出すなんて、もう病気だ。 自分のモノよりも芯のある黒髪とその下にある長い睫毛に縁取られた瞳。そして、人を食ったように歪められる唇。 瞼の下に鮮明に浮かんでしまったその姿を消してしまいたくて、はMDプレーヤーの電源を切った。 途端に静かになる空間。唯一聞こえてくる風の音が心を落ち着かせてくれる気がして眼を閉じる。 「(・・・ダメだ)」 風の音に耳を傾けてみたって”彼”の姿は消えやしない。それどころか頭の中では先ほどのフレーズが繰り返しリピートされていてイライラする。 気分転換にと思いつと、外に出た。 目的地は近くのコンビに。暑くて頭の中がもやもやしてる。だから変なことを考えてしまうんだ。風に当たって、冷たい物を飲めばきっとすっきりする筈。 ・・・そう思ったのに、人生そんなに上手くはいかないらしい。 「あれ、やんか。偶然やな」 それにしたってこんな偶然あるもんか。 「・・・なんであんたがココにいるのよ」 「ん?喉渇いたんでコレ買いにきてん。はどないしたん?」 「・・・飲み物買いに」 同じコンビニに同じ時間に来て、バッタリ会ってしまって。その理由まで同じだなんて。そんな些細なことがどうしようもなくひっかかる。 侑士が持ったミネラルウォーター。あえて別のものを手に取った。 ああ、なんて些細で無意味な抵抗。 「ありがとうございました」 愛想の笑みさえ浮かべない店員の声に見送られて外に出た。 そこには先に会計を終えた侑士が立っていて。つい先ごろ思い描いていた髪も瞳も唇も、変わらずにある。 「終ったん?なら、帰ろか」 「・・・ええ」 さり気なく待っていて送ってくれて、こんなところは紳士。 だけど、無言でイキナリ手を握るのは痴漢行為だ。・・・と、思う。あたしは。 「・・・変態」 「何で?手ぇ繋いだだけやん」 確かにそうなのだけど、「恥ずかしいから」なんて言えない。(「本当は少し嬉しい」とも) 「それに、今日のは少し機嫌悪いみたいやからな」 「は?」 図星をさされたあたしの眉間に出来たシワ。侑士の笑顔でとれた。 「元気出るやろ?」 手のひらからの温もりは脳まで広がる。 それは家を出る前のもやもやした暑さとは全く別のモノ。リピートしていたフレーズはいつの間にか飲まれていた。 「・・・そうね」 私の思考の貴方は消え、五感、否、六感でホンモノの貴方を感じるのだ。 |