ちらちらと時計を気にしている自分がいて。そろそろか、なんて思ったりして。いつの間にかここは電話の前。かといってその受話器をとったりしない。ダイヤルを回すことも無い。ただ待つのだ。 「・・・う゛お゛ぉい馬鹿かぁ、俺は」 自分に呆れながらもこの場所を離れることが出来ないでいる。 未だ沈黙を貫く電話機を睨む。アンティーク調の美しい外見に似合わずに喧しい音を立てて、もうすぐ俺を呼ぶ、はずだ。 *** <もしもし、スクアーロ?> 「またかぁ、」 “いい加減にしろ”というニュアンスを含んで言えば、ふふっと微かに音を漏らして笑うのが聞こえる。 任務のたびに電話をよこす。うざがっているそれが、実はいやじゃなかった。言いやしないけれど本当は嬉しい。心待ちにしているのがそのいい証拠だ。顔だって赤みが差しているのだろう。受話器を持っていないほうの手は、口元が綻んでしまうのを隠そうとしてずっと口へ置きっぱなしだ。 かっこ悪いぜぇ。部下にはもちろん、こんな姿誰にも見せられねぇ。 一瞬途切れた会話の合間に再びが笑った。 今度はさっきのように短くも、控えめでもない。クスクスと面白そうに・・・違う、嬉しそうに笑う。 「お前、何笑ってんだぁ」 <だって、今ね、とっても素敵なこと思いついちゃったんだもん> 「何だぁ?」 “えー”っと躊躇うような声を出して、それから心なしか小さくなった声で笑わないかと問う。そんなこと責任は持てなかったが頷く。だって躊躇うポーズをとりながら、本当は教えたくて仕方ないのだ。見えなくたって声の調子でそれが分かる。 予想通り彼女は弾んだ声で話し出す。 <あのね、私とスクアーロ、繋がってるんだなって思って> 「はぁ?意味分かんねぇぞぉぉ」 何時も通り要領の得ないの科白に疑問で返す。 でも、俺が本当に言葉を失ってしまうのは、次に出てきた科白を聞いてからだ。 <今ね、遠くにいるけど電話線・・・電波かな?とにかく繋がってるんだよ!?> 「ああ」 <まるで赤い糸みたいじゃない?> の発想に言葉を失う。 子ども染みた、夢見る少女のようなしに幼い考えを、俺は“馬鹿なこと”と切り捨てることが出来なかったのだ。 なぜなら、俺も同じことを考えていたから。彼女の声音、笑う声、伝わる微かな吐息。それだけでの表情一つ一つが、細やかな仕草までもが鮮明に浮かぶ。隣にいるかのように近くに存在を感じる。これを“繋がっている”と言うのだろう。 「・・・馬鹿じゃないのかぁ、お前」 <なんで!そう考えると素敵な感じしない?> 「しねぇぞぉ」 <もう、スクアーロのばか。・・・まぁいいや。じゃあ、まれ電話するね> 「ああ」 最後に笑ったの声が耳に残る。熱を持った受話器と同じく、胸が熱くなっている。俺たちは繋がっていた、繋がっている。 *** カチっと時計の針が動いて、同時にけたたましいコール音が鳴り響く。同じようにして電話の前でタイミングを見計らっていたのだろうを思い浮かべて手を伸ばす。 受話器をとれば、今度は柔らかい声が俺の名を呼ぶのだ。 |