*「悪魔が見せた奇跡」後の話です。





何を考えているのか全然分からない。
その瞳には何を映しているの?私の姿は、ある?





、一応言っとくが今は自習の時間ぜよ」

「分かってるよ。だから勉強してるじゃない」

「何の教科じゃ?」

「・・・生物?」

「わしを見つめてるようにしか見えんが」

「だって雅治の観察してるんだもん」



“当たり前じゃない”というニュアンスを含ませた口調で言うと、」雅治はククッと喉を鳴らして笑い、私の頭にポンと手を置いた。
私は雅治にそうされるのが大好きなのだけれど、もしかしたらそれは表情を隠すための行為なのかもしれない、とふと思った。雅治の手の温もりを待つために、私は何時も数秒目を瞑ってしまうから。



「そんなことせんでもいつでも見てるじゃろ」

「うん、見てるね」



見てるよ。いつだって、見てる。
でも、それでも、どんなに眼を凝らしても見えないものがあんだよ。雅治の目に映る景色や、雅治の欲しいもの。
特にね、私には歪んで見えちゃうんだ。

私は雅治が欲しいから。

予想と希望がごちゃ混ぜになって、どれが本物かわからないよ。



「ねぇ雅治。雅治には今何が見えている?」

が見えとる」

「・・・だから、」



そうじゃないんだってば。



「睨みなさんな」



今度は二回、頭を軽く叩いた。
今度は、今度こそ、それははぐらかす為なんだとはっきり分かった。観察していたのは伊達じゃないんだと、雅治の手を無言でどかした。



「雅治の馬鹿」

、」



再び頭上に置かれた手は、優しくて少し遠慮がちだった。



「雅は・・・」



見上げるといつもどおりの笑みで、だけどどこか寂しげに見えてズキンと胸が軋んだ。



「“言わなくてもいい”んじゃなかったか?」

「あ・・・」



それは、以前私が雅治に言った科白。



『言いたくないなら良いよ。言いたくなったら、受け止めるよ』



「言ったけどさ・・・」



雅治が何時も言おうとして、嘘でごまかして、そして結局自分が傷ついていること知っていたから。



「“けど”なんじゃ?」

「・・・ごめんなさい」



ちょっと頭にきた。“分かればよし”とでも言いたげな雅治の勝ち誇った顔に。



「でもさ、比呂士に―男の子に嫉妬しなきゃならない女の子のむなしさも分かってよ」

「柳生に?何で嫉妬するんじゃ?」

「好きなコのことはいつだって一番解っていたいんだよ?」



一瞬きょとんとした表情になった雅治が可愛かった。
次に私の頭に手を伸ばすなら、それは照れ隠しだね。
少しずつ、少しずつでいいから分かっていけたら良い。
さっき頭にきたのは、自分の勉強不足のせいでもあるから。



「雅治」

「何じゃ」

「今、自習の時間だよ?」

「・・・わかっとる」



観察し続けるから、注意して。



自習
(先生も教科書も無いの。いつだって独学)