半分夢の中にいる心地良い気分の私に、バニラの香りが届いた。 私はこの香りを知っている。わたしの大好きな、あの人の匂い。 「、起きないのか?」 耳元に聞こえる耳障りの良い声に、フフっと笑ってしまう。だって私の鼓膜を揺らすその空気がくすぐったいの。 「・・・寝ぼけてるのか?」 大きな暖かい手が、顔にかかった私の髪を優しくどける。その体温を知ったのはある寒い日で、不器用なことを知ったのはついこの間。でも、その不器用な手が私に触れる時だけはとても繊細なんだってことは今気づいた。また、貴方への”愛しさ”が増えたね。 「おはよう、ディーノ」 「あぁ、起きたな。おはよう、」 寝転んだまま身体だけディーノに向けて微笑んだ。同じように微笑んでくれたディーノの髪は朝の日の光を浴びて柔らかく輝いている。今は開かれている眼を閉じた時の、長い睫毛もソレと同じように美しいのだ。 「まだ、眠いのか?」 じーっと彼を見ていると、照れたように笑いながら私の髪に指を差込み、緩やかにからめた。ディーノの癖であるこの動作が私は大好きで、ああ本当に寝ぼけているのかもしれない。ディーノの愛しさに触れる時はいつだって夢見心地だ。 「うん、寝ぼけてるのかも」 「じゃあ、もう少し眠るか?俺はここにいるから」 「ううん、止めておく」 「そうか?遠慮ならしなくていいんだぜ」 「違うよ、だってディーノがいるのに、もったいないじゃない」 顔の緩んだディーノが嬉しそうに笑った。つられたように私も笑う、と穏やかな朝が緩やかに時を刻むのを感じる。 さぁ、そろそろ本当に起きなくちゃ。幸せな午後にはきっと、また貴方の愛しさを見つけられるはずだから。 「ねぇディーノ、おはようのキス、して」 新しく見つけた気持ちに甘いクリームをプラスして。 「おはよう、俺の眠り姫――-」 再び香るディーノのバニラの香が胸一杯に広がる。 何層にも重なった、貴方を想うこの気持ちは、まるで、
ミルフィーユ (恋の歴史の甘い地層) |