*標的111のネタバレを含みます。









男に突き刺した刃を無造作に抜けば、男が倒れる。
血が当たりに散った後、見計らってでも居たかのように水滴が落ちてきた。



「・・・雨」



ザアザアと徐々に強さを増していく雨に、私の頬に飛んだ血もコンクリートに広がった血も洗い流されていく。
気持ち良い、優しい感覚。



「う゛お゛ぉい、。お前何やってんだぁ?」

「・・・スクアーロ」

「いくらお前が馬鹿でもそんなトコに突っ立ってると風邪ひくぞぉ」



ぶっきらぼうに、悪態をつきながらの頭上に掲げられた傘。素直じゃない優しさに微笑めば、そっぽを向いてしまった目じりに浮かぶ感情。愛しくて、切ない。



「スクアーロを感じてたんだよ」

「はぁ?何言ってんだ?」

「スクアーロは雨になるんでしょう?」



血を洗い流し、戦いを清算する雨。
どんなにどんなに殺しても、返り血を浴びても。スクアーロ、アナタが居れば私はいつまでもキレイでいられるよ。



「ばぁか」

「あ、スクアーロ、照れてる?」

「うるせぇぞぉ。ほら、帰るぞ」



乱暴に掴まれた手。熱い体温。彼に流れる紅い血。雨に打たれていたときよりも、ずっと強くスクアーロを感じる。



「あ!見て、スクアーロ。虹が出てる!!」

「ああ・・・キレイだな」



雨が上がって、見上げた空は美しかった。私の心も、それを造ったスクアーロの横顔も。
背後に残してきた血はキレイに洗い流されていた。







* * *








「スク、アーロ?」



映し出される映像。水面が赤く染まった。
スクアーロが戦った戦場には人口の雨が降り注いでいた。敗者を洗い流すための。



「スクアーロ、スクアーロぉ!!」



アレは、スクアーロが降らしたのではない。彼は敗北者になったのだ。



「過去を一つ清算できた」



ボスの声が耳に届く。清算。清算、そうされるのはスクアーロではなかったはずだ。彼はずっと私の傍に居て、優しく、私を私で居させてくれるの。



「嫌だっ!スクアーロを消さないでぇ・・・」



彼が洗い流される側になるなんて、考えたことも無かったんだ。





通り雨
だからね、アナタが降らせてるんじゃないってだけでこんなに哀しくなること知らなかった。