一陣の風が吹く。





「さよならです、

「・・・」



骸の言葉に応えられなかったのは、置いていかれることに拗ねていたからじゃない。認めたくなかったのだ。離れてしまえば、彼らは、骸は、二度と戻らないと解っていたから。



「・・・、」

「約束」

「え?」



無理にでも繋ぎとめたくて仕方なかった。
突き出すようにししたあたしの小指を、骸は怪訝そうに見つめていた。



「約束して、待ってるから迎えに来て。10年でも20年でも30年でも、ずっと待ってる」

「僕はを迎えに来れるような真っ当な道には居ませんよ。10年、20年、30年先でも」

「いいの、だったら攫っていって」

「・・・」

「骸!!」



震える小指を骸は見つめ続けた。
あたしは縋るように、何にだか解らずに祈った。神でも悪魔でもなんでもいい、コレが最後の賭けなのだ。
骸は小指から外した視線であたしの瞳を見て、しばらくすると苦笑して



「わかりました」



小指を絡めた。



「ありがとう、骸」



あたしが笑った。
一陣の風が吹いた。
思わず眼を瞑ってしまって、再び眼を開いた時にはもう骸は離れていた。



「骸」

、   」

「え?なんて言ったの?聞こえ・・・」



もう一度大きく風が吹いて、おさまる頃には骸の姿はどこにもなかった。





* * *






あの時、約束したのは自分を安心させるためだった。寂しさを宥めるためだった。
頭のどこかが、そんな約束果たされないことを知っていた。
繋ぎとめられてしまったのはただ、あたしの心の方だ。今も、一陣の風が吹くたびに思い出す。


髪が舞い上がる。


横切った風を追うようにして振り返れば、そこには。
時の中で色褪せてしまった藍と緋の色が滲む。







擦り切れてしまった声が広がる。



「骸」



風が過ぎれば残るのは凪のような静けさ。
本当は、かぜの向こうに消えた言葉も知っているの。





『 ごめん 』

(そして、amare)