着ぐるみ
それはロマンチストがかぶった「夢」という妄想のこと、だ。 は、俺の彼女であるは全然、全く持って素直じゃないんだ。本当は嬉しいくせに恥ずかしがって「ありがとう」の言葉ひとつも言わないし。俺がどんなに甘い言葉で最上級の愛を囁いてみたってふわりとした笑顔を見せないし。(それどころか怒ったりする) 「なぁ、」 「何」 本を読むの髪を柔らかく、愛情を込めて引っ張って彼女を呼ぶ。だけどは俺に見向きもしないで邪険に振り払う。こんな仕打ちをされたら深々とこれ見よがしに溜息をつきたくなるのも無理はないだろう。 「・・・なに溜息ついてるのよ」 「そりゃあ溜息の一つもつきたくなるさ」 「わけが解らない」 眉間に皺を寄せたが俺の悪戯心に火をつける。 ふっと笑ってにキスをしようとすると、彼女が読んでいた雑誌に阻まれた。 「、これどけてくれないか?キスが出来ない」 「そのためにしてるのよ、バカ」 恥ずかしがり屋のは簡単にキスを許してはくれない。だけど、此処でめげてはいけないんだ。 「は俺とキスしたくない?」 「・・・精市、」 「俺とキスするのは嫌?」 「精市」 「・・・」 悲しげな風を装うと、慌てたように雑誌を下ろす。 空気だってもう糖度は申し分なくて、今度こそと思った俺の顔に、次は雑誌を押し付けられた。 「・・・、君にロマンチスムは無いのか」 呆れながら言うと、 「残念ながら、あたしはリアリストなの」 はやや睨みつけるような調子で応えた。 「だけどそれじゃあ俺はつまらない」 「じゃあどうして欲しいのよ」 「そうだな・・・」 俺が愛の言葉を囁いたのなら嬉しそうに微笑んで、愛の言葉を返す。そしてキスを強請って、俺が応えてやればまた微笑んで・・・ 「・・・なんていうのはどうかな?」 「無理」 そんなを見てみたいという俺の願望から口にしたそれはあっさり、そしてきっぱりと切り捨てられてしまった。 「・・・だろうな」 苦笑した俺が“残念だ”と僅かながら思ったことは確か。だけど、 「」 「えっ、」 隙を突いての唇を奪った。とっさに俺と壁を作ろうとしたの両手はしだいに俺に縋りつくものに変わっていた。それこそ、天邪鬼なの本当の気持ち。 素直な可愛らしい彼女が見れないことは確かに残念で、だけど、赤味の差した頬とはにかんだ一瞬の笑顔がとても愛しい。 それだけで俺の妄想で構成された夢の塊は全て打ち砕かれて、素っ裸になった俺は、ただありのままのを愛するんだ。 「、好きだよ」 「・・・あたしも、好きよ」 不機嫌な顔で愛を囁く君が、あぁ、なんて (君は、虚像で出来た着ぐるみなんかよりずっとずっと温かいよ!) |