青白い光が差し込む部屋の中で、骸が眠っていた。 コイツの寝顔を見ていると、嘘だ、詐欺だ、って思う。何がって、この横たわっている身体がまだ生きてるってコト。 だって、骸の寝息は静か過ぎて聞こえなくて、胸が上下してるのだって微か過ぎて見えなくて、顔は青白く照らされて、冷たい。 どうやったって死体にしか見えないよ。それはそれは美しい死体。 「(あぁそういえば、死体愛好家の王子様なんていたな)」 少しだけ王子の気持ちが分かってしまって(でも多分、あたしは骸以外の死体には惹かれない)、魅せられるままにその唇に口付けた。 柔らかい。あたしよりも冷たいけれど、確かに温かい。なんだ、ちゃんと生きてる。 そう確認して、唇を離そうとした。のだけれど、いつの間にか頭を固定されていて動かなくて、驚いて僅かに口を開くと舌を入れられた。 「ちょっ…んっ…ンン!」 中身は熱いなんて、そんなの反則だ。 「ン…ふ…っは」 窒息しそうに苦しくて、骸の肩を叩いてようやく解放される。 「いきなり何をするんですか」 「…こっちの科白、よ」 長い長いキスであたしは酸欠気味なのに骸はケロッとしていて、腹が立つ。誰よ、コイツが死体にしか見えないって言ったの。生気有り余ってるようにしか見えない!! 「せっかくからキスしてくれたんですからお応えしないと失礼でしょう?」 「…そんなことないから」 骸は”ニッコリ”という効果音が付きそうな完璧な笑みを形作った。 あぁ、やっぱり美しい。 そうだ、骸は完璧すぎるからいけないんだ。 「で、本当にいきなりどうしたんですか?」 「うん、分かった」 「…僕の話を聞いていますか?」 「骸は、何か”完璧”なんだよ」 「聞いてないみたいですね」 ほら、そうやって瞳を閉じて、溜息をつく。そんな些細な仕草までも洗練されていて美しい。 別に仕草や外見が洗練されていることとか完璧なこととか、そんなのどうだっていいんだ。でも、それらは骸の心だとか本質だとかを表している気がする。 「さっき、骸が眠っているとき、死体みたいに見えた」 「だからキスをして確かめたんですか?らしいですね。それで、死体ではないと分かったんですか?」 「うん、でも一瞬だけだった」 「ほう……」 興味深そうにあたしを見つめる骸の(完璧に美しい)瞳が、僅かに揺らいだ。それは光が反射しただけの錯覚だったのかもしれない。だけど、 それこそあたしから見える骸の在り様そのままだったのだ。 完璧ってなんだか欠けていて、歪んでるよ。 「やっぱり骸は”生きて”るように見えないの」 死体じゃない。ちゃんと動く。例えるならマリオネット。 ねぇ骸、アナタはちゃんとキレイに起動しているよ。 「キレイすぎるの、完璧すぎるの。”生きる”ってもっと汚くて、不完全なモノだよ」 ね、もっと、ちゃんと、”生き”て。 「…僕は、”生きて”ますよ。歪でどうしようもない気持ちも、ある」 「骸、」 「だってほら、の言葉ひとつで傷ついて、こんなに悲しくて……涙だってでるんです」 そう言った骸の顔は、瞳は、 だけど、 「骸、笑ってる、よ」 「あぁ、君は酷い人ですね」 心はきっと泣いて、いたのだ。 君を想う人間である僕さえ無くなれば、冷たく涙もないこの身体のように僕は心の芯までロボットになれるのに。 |