「あれ?香水変えたの?」

「は?」



何気なく問われた友人の一言。
あたしは香水なんてつけてない。





香水







「侑士、あんた香水なんてつけてたの?」



が指摘した香りには心当たりあった。
少し甘い、包み込むようなそれは、紛れも無い、目の前の恋人の香りだ。



「なんや、気付いてなかったん?」

「・・・あまり意識してなかった」

「で、何で気付いたんや?」



別段隠すようなことでもなかったため、は正直にとの やり取りを教えた。すぐに後悔することとなる。



「・・・何をにやにやしてるのよ」

「せやかて嬉しくて仕方ないねんもん」

「は?」



にはその展開が分からず“頭でもおかしいんじゃない”とでも言いたげに目の前の男を見た。



「それ、俺の香りに気付かへんくらいが俺といるってことやろ?」

「なっ・・・!」



反論も出来ずに固まってしまった身体は伸びてきた侑士の腕から逃れるために、開放された。



「どさくさに、紛れて何しようとしてるのよ」

「こうしよー思っとるんや」



必死で逃げた甲斐も虚しくあっさり捕まってしまい、その科白は頭の上から聞こえた。
感じるのは侑士の熱い体温と微かに甘いコロンの香り。



「どうしていきなりこんな状況になるのよ」

「印になるかと思って」

「印?」

「せや。俺のモン、って印。キスマークも付けとこか?」

「なに馬鹿言ってるのよ。ちょっ・・!」



じたばたと暴れて抵抗することは出来たけれど、赤く火照った顔を隠すことは出来なかった。




「もっと俺に染めたるから覚悟しい?」




耳元で囁かれた言葉にさらに顔を赤らめつつも、はそれに甘んじるつもりは毛頭無かった。



「嫌、よ」



隙を突いて侑士の腕を抜け出たは少し遠くへ避難して言った。




「あんたに染められるなんて冗談じゃないわ。香水だって違うのつけて、あんたの匂いなんて消してやるんだから」




パタパタと足音を響かせてが立ち去ってしまった後、残された侑士は零すように笑った。



「まぁ、俺がきっかけで変わるゆうんもええかもな」



悪戯に囁かれるその科白がに届くことはもちろん無かった。





***




後日、の纏う香りが変わったことにが気付いたとか。