くつ


キレイに置かれた靴を見ると嬉しくなって、おもわず顔が緩む。
その事実も、またその理由もは自覚していた。



「なに笑ってんだ?」

「んー?靴見てたの」



その科白に景吾は呆気にとられた表情をする。
の不可解な科白の後には、必ずそんな表情を見せて一拍置いた後に疑問を口にする。これは彼のクセの一つだ。



「靴の何が面白いんだ?」



この時もやはり景吾は少し遅れて尋ねてきて、予想通りの出来事には内心で笑った。



「さて、何ででしょう?」



ホントの事なんて言うときっと彼は呆れるだろうから。おどけて誤魔化してみる。まぁそんな事してみても無駄なこと。結局は応えさせられるだろうけど。



「いいから答えろよ」



ぐいっと頭を抱いて引き寄せられて、大きく迫った景吾の顔が言った。
笑って、観念することにする。目の前のこのヒトは呆れたような表情をしたその後に、甘いキスをくれるだろうから。



「だって、仲のいいカップルみたいじゃない?いつも一緒にいるんだもん」

「…くだらねぇ」



やっぱり景吾は呆気にとられてから科白を口にした。
それからの頭にある手に力を込めて、キスをする。
もまた笑いながら、瞳を閉じてそれを受け入れた。



ねぇ、景吾。やっぱり私達は靴だよ。
いつも一緒にいるの。あなたのクセの一つ一つ覚えちゃうくらいに。



「…まだ笑ってやがんのか?」

「ねぇ、私達はどんな靴かな?」

「さぁな」



興味のなさそうな景吾に少し調子に乗ってしまったかと思って、そしてちょっとだけ寂しくてしゅんとなる。



「頑丈な靴だろ」



唐突な答えに驚いて景吾を見れば、バツの悪そうな照れたような顔をしている。
こんな、優しい景吾が大好きだよ。



「どうして?」



可愛い流行りの靴も良いけれど、



「その方がずっと一緒にいれんだろ」



私はその科白に一瞬呆気に取られて、一拍置いてから笑顔で応じた。
まるで景吾みたいに。



「うん!」



出来れば、ずっとずっと一緒に。


そんな2人になりたい。仲良く並んだ靴のように。