ただ、ひたすらに活字を追っていると、古書の黄ばんだ紙にくっきりと白い手が浮かび上がった。 「何がしたいんだ、お前」 その手を押さえて問いただすと、は真面目な顔で俺を見ていた。 てっきりまたふざけていると思ったのだが。 「景吾さ、眼鏡かけた方がいいんじゃない?」 「なんでだよ」 「だって本読むときいっつも眉間に皺寄せてるんだもん」 言っては俺の手から自らのそれを抜き取り、俺の眉間にある(らしい)皺を指で伸ばす。もちろんすぐに止めさせる。 「俺はお前と違って視力良いんだよ」 「だから、悪くなったんでしょ」 返す言葉を探すのが面倒で、活字を追う作業に戻ることにした。だが、残念なことにもそんなことで諦めるような女ではないのだ。くだらないこと(そう言えば彼女は怒るのだろうが)にやけにこだわる。 「ねー、景吾ってば」 「・・・・・・」 「怖い顔ばっかしてるとそんな顔になっちゃうよ?」 「・・・・・・」 「私も嫌いになっちゃうかもー」 あぁ、どうしてこんなに頑固者なんだ、コイツは。 俺は再び作業を中断させる。 眉間に寄った皺は、自覚するとともに消す。に見られないように、指摘される前に。 「うるせぇ」 「だって・・・」 「もう黙れ」 なおも言い募ろうとするの唇を塞ぐ。 あの言葉は吸い取ってしまえ。 視力は落ちた。 でも、お前の顔ははっきりと見える程度だから、眼鏡はいらない。 たとえ更に視力が落ちようと、眼鏡なんてかけるものか。そうだ、コンタクトにすればいい。 その理由は、言わない。 |