それは金色のユメに囚われた瞬間
輝く金糸の髪と艶やかな真紅の鮮血。

月光の下、美しきヴァンパイアを見た。





「だから言っただろう?殺人現場の目撃、どうするんだい、ベルフェゴール」

「うしし。俺ちょっと遊んでくからさ、マーモン先に帰っててよ」

「…分かったよ。ボスには上手く言っといてあげるから感謝して欲しいね」

「サンキュ」



目の前で己を無視して会話が進められていく。自分は確かにココにいるのに。
まるで見えてないかのよう。傍観者。例えるならば夢に似ている。
黒ずくめの赤ん坊が大人びた口調で話しているのも、姿を消すようにしていなくなったのも、その考えを助長させる。



「コンバンワ。…名前なんての?」



そして何よりもこの男の姿が。







瞳の見えないそれは、この世で一番美しいモノに見えた。



「へー、いー名前じゃん、?」



頬に触れた、意外にも暖かい指先にやっと放心状態は解けた。(あぁ、できるならば夢のまま、覚めないで欲しかった)



「あ、ありがとうゴザイマス。じゃあ、サヨウナラ」



クルリと背を向けて走り出そうとするが、腕をがっしりと掴まれて、それは阻まれた。



「こんなトコ見られといてあっさり返すと思った?」



あたしの顔を覗き込んで笑う。
その特徴的な笑顔。あぁ、やっぱりココは夢路なのだわ。



「大丈夫よ」

「ん?」

「大丈夫、夢だって思うから」



男は―――ベルフェゴールは、あたしを掴んでいた手を離して、今度は腹を抱えて笑った。



「面白いな、ソレ。どんな夢?」


「金糸の髪の、美しいヴァンパイアの夢。そのヴァンパイアはあたしの名を聞いて、あたしの名を呼んで、キスをして、それから…」

「俺、キスなんてしてないけど」

「いいのよ、夢なんだから。多少は願望と妄想が入るものよ」



ベルフェゴールはクックッと喉を鳴らして笑った。
色々な笑い方をする男だ。そんな発見がベルフェゴールの温もりを彩る。夢か現か。



「ま、いーや。それで、”それから”?」

「それから、手を差し伸べて、あたしはその手をとって。ヴァンパイアはあたしを攫っていくの」



話し終えると、腕を強く引かれた。気付いたらベルフェゴールの腕の中で、彼とキスしていた。現の夢か。



「…ベルフェゴール、」

「願望なんだろ?俺が現実にしてあげるよ」

「攫って、くれるの?」



牙の無い歯を覗かせる笑みと、差し出された手。




その先にあるのは、




理想(ユメ)という名の現実)