悪魔が見せた奇跡

01.




何もかもを馬鹿にしたような口元も、試すような目元も、なんだか信用ならなくて苦手だった。
だけど、それが彼の必死で最大級の強がりだと気付いたら憎めなくて。
いつの間にか彼のことばかり見てた。





「仁王雅治君」

「なんじゃ、。人のことフルネームで呼んで」



話しかければ彼は眺めていた雑誌から視線をはずして私を見た。
その眼はちっとも他人のことを信用してないくせに、“話すときは相手の顔を見る”みたいに律儀で、そんなところが好きだ。



「仁王君って“雅治”って名前なんだよね」

「そうじゃが、それがどうかしたんか?」

「じゃーこれから“雅治”って呼んでもいい?」



“別に構わんよ”って言って、雅治は雑誌に視線を戻した。
“どうして?”とかもっと突っ込んできてくれても良いんじゃないかって思うのに。そう思って深々と溜息をつくと、喉を鳴らして雅治が笑った。



「…何、どうしたの?」

「いや、は駆け引きには向かんのう」

「どうして?」

「俺に理由を聞いて欲しかったんじゃろ?残念じゃがバレバレぜよ」



そしてまた笑う。

少し恥ずかしくなって、でもそこまでばれているならもう良いやと思って、ダイレクトに聞いてしまうことにする。駆け引きが出来ないなら直球勝負だよ。



「なんでいきなり名前で呼ぶんだと思う?」

「さぁて、なんでかの」



まるで気にならないというポオーズの雅治だけどもう気にしない。
駆け引きなんていらない。うん、私こっちのほうが向いてる。大事なのは自分の想いを伝えることだもんね。



「なんかさ“特別な人”って名前で呼びたくない?」

「どうじゃろうなぁ」

「私はそうなの。なんだか苗字より身近に感じるでしょ?」





“私にとって雅治は特別な人です”



そんな気持ちを込めて言った。雅治が一瞬だけ驚いたような顔をして、嬉しいような哀しいような複雑そうな顔をした。気がした。すぐに“そーか”といういつもの調子で煙に巻かれてしまったけれど、



「ね、私のことも“”じゃなくて“”って呼んで良いよ」

「遠慮しとくぜよ」

「そっか」



今はそれで十分だよ。



「自分で呼ばせてみたらどうじゃ」

「うん、そのつもりだよ」





私のハートを奪ったのは王子様じゃなくて駆け引き好きの悪魔。
きっとハッピー・エンドにして見せるから覚悟して。





・・・もちろん直球勝負でね。