悪魔が見せた奇跡

03.




名前を呼ばせてやると(勝手に)勝負を開始したものの、雅治の態度は変わらずだ。

本当は名前を呼んでもらうだけじゃイヤ。
“好き”と思ってもらいたい。
だけど、雅治がそんなことを他人に思うようになるなんてまだまだ無理だって分かってる。だから、せめて名前で呼んで欲しかった。









雅治の落ち着いた声で独特のイントネーションでそう呼んでくれたら。
それだけで、頑張れるから。

なのに、軽くあしらわれて流されて、なんだかもう嫌になってきたよ。
何も怖れてないバカみたいに能天気に、バカみたいに笑ってるのに。



「馬鹿みたいにするのって、結構疲れる、な」



それは雅治に届いてる?私を少しでも雅治に近づけてる?





「精ちゃん、どうしたの?」



ぼんやりとしていると目の前に精ちゃん、もとい幸村君がいてニッコリという効果音つきで微笑んでいた。男の子なのに柔和なそれは心を落ち着かせる効果を持っている。



「それはこっちの科白だよ。仁王のことで悩んでるんだろ?」

「あ…まぁ。悩んでるというか、不安、なのかも」

「だと思った。…大丈夫、あいつ結構のこと気になってるみたいだよ」

「えっ」







精ちゃんの話を聞いて私は雅治のクラスへ走った。



『柳生がね、のことを好きなヤツがいるって仁王に言ったらしいんだ』



無性に会いたくてたまらなくなったの。



『仁王、動揺して固まっちゃったらしいよ』





だから、大丈夫だよって。

なによ、それ。なによ。
疲れちゃってたの。今のうち、今のうちだったんだよ?私にアナタのこと諦めさせるなら。




「雅治――――――――!!」



教室の前で柳生君と話している雅治が見えて、私はいつものように笑って彼を呼んだ。
雅治から柳生君が離れて、反対に私は彼の傍によった。



「雅は…」



彼は今までに見たことのない種類の表情で、









って呼ぶから、私は泣きそうになって 笑った。





離れさせてくれない。
アナタはやっぱり悪魔みたい。





end.