「骸、愛してる」 「いきなり、ですね。どうしたんですか?」 「愛してるの」 「?」 「骸、愛して」 キュッと僕の服を握り締めるの手。だんだんと増えていく布に刻まれる皺が、彼女がいかに強く力を入れているかを伝えている。自身に言い聞かせるように繰り返される愛の言葉がか細い、救いを求める声に聞こえた。 「愛していますよ、」 「骸、貴方の前世にあたしは居た?」 「?」 「怖いの。あたしは貴方を愛した?」 その言葉に理解した。彼女が怖れているモノを。 それは喪失の恐怖。大切なモノを失う、自分自身さえもなくすことの恐怖。僕が知らないその恐れ。 は知らないのだ。すべてがオパールのごとく虹色に輝く、あの世界を。に出会うたびに感じるあの喜び。その瞬間いつも居るはずのない神に感謝してしまう。 永久の時間とは残酷なものだ。それでも僕は輪廻の記憶を失くしてしまいたいとは思わない。何ものにも代えられぬあの至福。君にも教えてあげたいと思う。その恐怖を除いてあげられたらと願う。 「怖い、骸、愛してる」 「解ってますよ、」 「死にたくない。イヤ。生まれ変わっても、骸を忘れるのなら意味無いの」 「大丈夫。僕がを覚えています」 “覚えている”そう言った骸の瞳が濡れている気がした。あれは愛しむ、哀しむ瞳の揺らめき。 彼もきっと怖れているのだ。 「ずっとずっと何時の世界もを愛している」 「骸…」 「だからどうかも僕を愛してください」 その言葉に直感する。彼の身に潜む恐怖を。 それは絶望と孤独。五感を閉ざされる闇に永劫囚われるような恐怖。あたしの知らない闇。 愛するものに忘れられるということはどれほどの痛みなのだろうか?ともに過ごす一瞬の光にどれほどの絶望を味わうのだろう。それでも愛することを止めない骸。貴方にあたしの熱を刻印したいと思う。独りで居るときにも貴方の心を温めたいと願う。 「…骸、」 |