「では行ってきます」



そう言って踵を返せば衣服にかかる重圧。ちらりと視線だけを送れば、震える白い手がそこを掴んでいた。
我ながらわざとらしいと思える溜息とともに振り向くと、頼りなさ気に僕を見る瞳と視線が絡む。



「どうしました?」

「・・・キス、して」



躊躇うように間を持ってからポソリと言葉を発した。僕は口元をゆがめて嘲笑い、彼女の顎に手をかける。
結局、縋るくせに。





『唇と唇で繋がれば、考えてることも想いも、全部伝わるんじゃないかと思ってた』



毎回、長期で離れることになるたびにキスを求める。以前、その理由を尋ねた僕に彼女はそう言った。しかし、間違いだったとも。



『だってね、伝わってくるのは骸の唇の冷たさだけで、頭の中なんてちっとも解らないのよ』





唇を離せば、淋しいそうな切なそうな表情。



「キスしても解らないんじゃなかったんですか?」



もともと分かっていたことだろう。苛々する。
の熱い唇は僕の体温の冷たさを浮き彫りにする。ただ、隔絶ばかりが広がってゆく気がした。



「そうね。でも、解りたいの」

「無意味だと分かっているのに?」



そう言って再び嘲笑すれば伸びてくる彼女の腕。
細い指が、僕の頬に触れる。



「でも骸、あなたも解りたいんでしょう?」

「・・・何故?」

「だって、骸も悲しそうな顔をしてる」



肯定も否定も出来ずに瞳を閉じた。
確かに、そうなのかもしれない。広がる距離に恐怖した僕は解り合えぬことに苛立ったのだ。
頬から感じる熱がそれを僕に伝える。あれほど憎んだその、熱が。
ふと離れるそれ。今度は僕が求める。



「っ

「骸?」







手繰り寄せた
を絡ませた。






傷だらけの指、血まみれの。切ないほどに愛しい。
手繰り寄せた手、絡ませてゆく指と指。熱が融けてどちらのものだかわからなくなる。



「あぁ、今度こそ・・・」


このままでいれば、今度こそ僕らは解り合えるのかもしれない。







(Arrivederci様へ。企画参加させて頂きありがとうございました。)