誰かあの人の傍にいて、愛して、寒い夜には温めてあげて。どうか。彼がそれを求めるのがあたしじゃなくても構わないから。





「久しぶりですね、



唐突にあたしの前に姿を現した骸。美麗な顔を飾るのは翳りのない微笑み。彼の隣には愛らしい女の子。華奢な白い手は違和感無く骸の腕に添えられていた。甘えているようなその彼女の仕草が、骸を支えているように思えた。あたしが知らない骸を彼女は知っているのだ。あたしがし得なかった何かを彼女は骸と共有しているのだ。
涙がぽろぽろ溢れて止まらなかった。尽きること無いあたしの醜い感情が、湧き水みたいに綺麗なふりをしてあふれ出す。嫌悪感が募る。



「何を泣いているんですか」



骸が苦笑して涙を拭ってくれる。その手つきは優しくて、とても愛しそうにあたしに触れる。この手の主がただ幸せであるようにと願い続けていたのに。一瞬でもあなたの破滅を願ってしまった。嫉妬に狂う自分がいた。骸が嫌うこの世界のようにくだらない感情。結局、あたしは自分が一番可愛かったんだよ。ごめん、あたし、とんでもない過ちを犯してしまった。醜いあたしを許して。



「泣かないでください」

「・・・無理よ」



だって止まらない。
歪んだ視界には何も見えない。例えば死ぬことも生きることも、あなたの為ならなんだって出来る気がした。地獄に落ちることも、闇に閉ざされることも何の苦痛にもならなかったんだ。だけど今思えばそれはあなたの為なんかじゃなかった。ただ、あたしがそうしたかっただけなの。
貴方の傷も痛みも優しさも狂気も、全てあたしで包み込んでしまいたかった。他に愛し方なんて知らない。こんなあたし達に未来が在るはず無かったね。





「骸様、私向こうにいます」

「ああ、・・・はい。すみませんね」

「いいえ」



骸が連れた女の子はあたしにも笑顔を見せて、軽く会釈をすると離れていった。健気な姿。骸のために何かしたい、役に立ちたい。嘗てのあたしによく似た、しかし決定的に異なる後姿を見つめた。





「骸ごめん」

「?」

「ごめんね、あたし今あんたの笑顔が疎ましいと思ったの」



愛しくて憎い。いつか、あたしの知らない顔をする骸をあたしは壊していしまいたいと願うのだろうか。この“疎ましい”という気持ちは加速していくのだろうか。子どもが転がす雪の玉。だんだん醜く黒く汚れていく。愛しい気持ちはもっと綺麗なものだと思っていた。




「謝らないでください」

「だって・・・」

「僕だって同じです。の笑顔を想いながら、僕のいない世界であなたが泣いて居るのを願っていた」



骸が手袋を外した指であたしの頬を撫でる。
唇が近づいて、厚い舌先が其処に伝う涙をなぞった。
「骸、やだ」そう言っても、骸は止めてはくれなくて。そういえば骸はいつだってそうだった。そしてあたしも、本当はそれがいやじゃなかった。

やっと離れた骸の顔に映える笑顔。世界で一番綺麗なこれはあたしのものだ。




のために僕を好きでいてください。僕は・・・僕も僕のためにを愛します」





世界で一番醜い感情



(だけどね、世界で一番大きいの)







(クロームちゃん登場時、謎が解明される前に書いた妄想捏造文です)