キャパシティ




自分は昔からどうにも言葉足らずでそれを気にもしなかった。しかし最近では容量が足りないのではないかとよく考える。





「手塚がそんなこと考えるなんて珍しいね」

「不二、俺は真面目に言ってるんだ」



不二に話すとからかう様に笑いながら返されたが、俺の科白を聞いた後は“分かってるよ”と言い、真面目に応じた。



ちゃんのこと?」

「あいつが何かを言ったわけではない」



だが、あいつの想ってのことだということは確かだった。
最近、どこか気落ちしている様子の。自分では彼女に優しい言葉一つかけてやることが出来ない。それが歯痒かった。
手塚は目の前の不二を見た。
自分は羨ましかったのだ。この物腰柔らかく、誰にでも好かれる友人が。彼になら、いくらでも優しい言葉を紡ぐことが出来るのだろう。柔らかい笑顔で。



ちゃんは寂しいんだよ、きっと」

「寂しい?」



“何故”という意味を言外に含ませ問うと、不二は続けた。

俺は強く見えると。何もかもを独りで背負えるように見える。(『本当は、そんなこと誰にも出来るわけないのに、ね』)だから自分は必要ないと思えてしまう時がきっとある。その時を寂しさが襲うのだろう、と。



「・・・そうか」

「でも大丈夫だよ。君は僕と違って正直だから。言葉なんてなくたって伝わるよ」



不二との会話はそこで終わったが、自分と違う、と言った不二の自嘲的な笑みが強く印象に残った。







「国光、今日は何か考え込んでるんだね」



帰り道、を送っている途中で彼女が言った。



「・・いや、なんでもない」

「そう・・」



安心させるためにと発した俺のその科白で、心配そうだったの表情が寂しげに変わったのは気のせいではないだろう。




「じゃあ、ありがとう」



の家に着いても、彼女の表情は変化していなかった。



「やはりダメだな、俺は」

「え?」



を明るく笑わせてやることも出来ない。こんな時、不二ならどうするだろうか?




『君は正直だから』

『言葉なんてなくたって伝わるよ』



あぁ、そうか。




「国光?どうかしたの」

「いや・・」

「そう・・・。じゃあ、バイバイ」




返事の代わりに、さよならの代わりに、を抱きしめた。



「国光?」



驚く声にも応えは返さずに。
俺の小さなキャパシティから零れ出る多量の想いが、寂しがりやなを温かく包むようにと願った。




言葉は無く、しかし確かに腕の中、が微笑むのを感じた。