「おめでとうございます」
「イザークおめでとー」 口々に投げかけられる言葉と、料理の並んだテーブルを囲む仲間達。口元に浮かびそうになる微笑をおさえても、溢れ出る喜びを隠すことなど出来ないのだろう。 「ふんっ、この歳になって誕生パーティーなんぞされても」 「だが、イザークわらってるじゃないか」 「…うるさいっ」 照れ隠しの怒鳴り声も、周囲の機嫌を損ねることにはならない。 小さい頃は全てを受け入れてくれる母と父がいて、今もともに居てくれる仲間達がいる。それだけで自分はなんて恵まれているのだと思う。 「あはははは。でも誕生日っていくつになってもドキドキするものですよね」 「だなー。子供のときは“今だけの特権”とか思ってたけど」 「あ、ラスティも?今ぐらいの年齢が凄く大人に見えたよね」 「あぁ、確かに」 「あったなぁ」 「すっごい憧れたの!物語の主人公とかも此の位の歳が多かったし」 「ああ、自分も大きくなったらこんな風に・・って思ったわね」 「でもそんな乙女なこと考えるんだな」 「うっさい」 「ラスティ、貴様はいつも一言多いんだ」 の発言をラスティが茶化し、睨まれる。いつもどおりのその光景に呆れた科白をやれば、その青色の眼は今度はじっと俺を見た。 「なんだ、ラスティ」 「ほら、今日の主役はやっぱイザークだからさ、イザークに聞くのがいいかと思って」 「…今の発言で理解できたやつ、通訳しろ」 「あー、私もそれがいいと思うよ、ラスティ」 「だろだろ?」 勝手に盛り上がるラスティと。見かねたニコルが苦笑しながら説明してくれた。何で理解できるんだという疑問はこの際置いておくことにする。 「小さい頃の思い描いた自分と、それが実現してるのかって話を聞きたいんだと思いますよ、多分。、ラスティそれでいいですか?」 「そー、さっすがニコル!!」 「聞きたい!!」 「あぁ…」 納得するとともに意識は幼い頃を思い出して漂いだす。 あの頃は、とても小さな世界で俺の生活は完結していた。母と、ディアッカ。そして少数の使用人。その中で自分は庇護されているものだということを漠然と感じ取っていた。凛として大きかった母の背中。その隣に並び立てる男になりたいと思っていた。 「イザーク?」 赤い瞳に覗き込まれ、意識は急速に戻った。 「どうしたの、大丈夫?」 「あぁ、なんでもない」 が心配そうな表情を訝しげに変化させたところを見ると、俺は今笑っているのだろう。この少女は少しだけ、母に似ているのかもしれない。その凛とした背中が。 「で、イザークどうなんだよ」 「なにがだ?」 「小さい頃の憧れと実現しているかだろう」 俺はまた不敵に笑う。 母に似た凛とした背中は、強く見えて実は傷が目立った。今はあの頃見えなかったそれが見えるのだ。見えるゆえに、支え、ともに戦うことが出来るのだ。広くなった、この世界で。 「秘密だ」 「えー、何で!?」 「イザークのケチッ」 「、ラスティ、落ち着いてください」 「まぁなんにせよ、叶ってはいるようよ」 「何で分かんの、!?」 「俺もと同意見だぜ」 とディアッカの言葉に眼を見開けば、奴らは得意げに笑った。 「だってイザーク笑ってるんだもの」 「お前昔から変わらないよなぁ、そういうとこ」 「うるさいっ」 「あはは、イザーク顔に出すぎだね」 「は分かっていなかったじゃん」 「それはラスティ、お前もだろう」 「そしてアスラン、僕らもですよ」 消えていく料理とテーブルを囲み、笑いあう仲間達。一度も途切れぬ笑い声が俺を幸福へと誘うのだ。 「良かったわね、イザーク」 「…あぁ」 少し輪を外れて遠巻きにそれを見ていると、が隣へ来た。 笑顔の言葉に素直に返せば、驚く表情とすぐにまた前以上の笑顔。隠すことの出来ないこの幸せをもう照れ隠しで塗り固めることなんてしたくないんだ。 「イザーク、誕生日おめでとう」 「あぁ、…ありがとう」 今、大きな声で言いたいくらいだ、『俺は幸福だ!』。 「あー、お前さ主役がなにはじっこ行ってんだよ!」 「今戻る」 「あっ、ねぇイザーク!!」 「なんだ、」 「じゃあ、未来はどうなってたらいい?」 「未来、か…」 僕らは未来への夢と希望を抱いて今を高らかに謳い、生きる。 「秘密だ」 |