The chocolate crisis.




女の子達が甘い話題にそわそわしだせば、俺たち男だって何だかドキドキしてくる。“バレンタイン”ってのはくだらなくて他愛なくて、でも俺たち若者が青春を謳歌するにはかなり重要なイベントなんだ。



「よっ、ディアッカ!こんなトコに突っ立って何やってんだ?」

「ラ、ラスティか・・・」

「あっ、聞けよ。さっきアスランがさぁーあ」



もー面白いんだって。『今日はなにかあるのか?』とか聞いてくるからさ、何でそう思うのか聞いたわけ。そしたらアイツなんて言ったと思う?女の子達があちらこちらで待ち伏せしててプレゼントの嵐だってよ。それでバレンタインだって気付かないアスランも凄いよな〜



「女の子達も可哀想っ・・・てお前ホントにどうしたんだ?」



アスランの一件の衝撃が強すぎて一気にまくし立てた俺だったけど、普段ならこの辺で乗ってくるディアッカの様子がおかしいことに気がついた。よくよく見ると顔色が悪いし、心なしか汗までかいているような気がする。



が・・・」

「ん?」

がチョコの話をしながら楽しそうに歩いていったんだ!!」



切羽詰った感じで訴えてくるディアッカだったけど俺にはイマイチその重大さがわからなかった。 も(一応)女の子なんだし、チョコをあげたい相手くらいいるだろう。それに俺たちはみんなその相手を知っているはずだ。



「んなのアスランとイザークにでもやるんじゃないか?」

「俺にはもう渡したんだ!!」

「おわっ!イザーク、いつからいたの?」



いつの間にか現れて怒っている様子の(肩で息をしている)イザーク。
その手には大切そうに握られたチ●ルチョコが一つ。



「・・・イザーク、貰ったってもしかして・・・」

「コレだぁっっ!!」



ずんと突き出されたチ●ルチョコを前にして俺は漸く事の重大さを理解した。がバレンタインに参加するとしたら相手はもちろんイザークとアスランのはずなのに、その当の本人(の内1人)はチ●ルチョコ。
そして他にも渡す人がいるかのような素振り。そうなると浮上する問題は・・・



「まてよ、じゃあアイツらが渡そうとしている相手は誰なんだ?」

「俺が知るかっ」



そっぽを向いてしまったイザークには悪いが俺とディアッカにとっては興味をそそられるネタに違いない。落ち着いてきたらしいディアッカと目があうと2人揃ってニヤリという笑みを浮かべた。




「「調べてみようぜ」」





TARGET1.アスラン・ザラ



「やっぱの相手としてはアスランが第一候補だろ」

「でもがイザークに渡してないんだぜぇ?」

「・・・おい、奴なら其処にいるぞ」



面白がる俺とディアッカに不機嫌さを隠そうともしないイザーク。
そのイザークが指し示す方を見ると、優雅にコーヒーをすすりながらプログラミングと格闘しているアスランがいた。



「よっ、アスラン」

「ラスティ・・・ディアッカにイザークまで。みんな揃ってどうしたんだ?」

「ちょっと調べ物をしててさ」

「調べ物?」

怪訝そうな顔をするアスランの周囲を見回してから、3人で顔を見合わせる。
俺だけじゃない。3人ともがアスランに渡したと思しきプレゼントは見つけられなかった。



「あー、アスラン?ってお前んトコ来た?」



来ていないだろうと予想しながらもディアッカがそう尋ねると、アスランは何と肯定を示した。



「えっ!?マジで!!んで?」

「“んで?”って・・・3人とも本当にどうしたんだ。そんなに驚くことか?」



本気で何のことか分かっていない様子のアスランに、俺は先ほどの会話を思い出した。そうだ、コイツ、今日がバレンタインだって気付いてないんだ。



「あのな、アスラン。今日が何の日だか分かる?」

「?いや・・・」

「貴様はバカか!今日はバレンタインだろうが」

「えっっ」



痺れを切らしたようなイザークの科白にアスランは本気で驚いている。ああ、これは貰ってないな



「んで、お前2人に何か貰った?」

「・・・コーヒー一杯・・・」

「「「・・・・・・・・・」」」





TARGET2.ニコル・アマルフィ



もニコルのこと可愛がってるからな」



新しく仲間に加わったアスランの予想で次はニコルを尋ねることになった。
まぁ確かにあの3人は普段から仲が良いし、本命ではないにしろちゃんとしたプレゼントをあげていることは十分に考えられる。



「ニコル、いるかぁ〜?」

「あ、みんな・・・」



この時間ならばニコルはここにいる筈だとレクルームを覗くと彼の柔らかい緑の髪が見えた。
振り向いたニコルはいつもの穏やかな笑顔だが心なしか元気が無い。



「ニコル、お前なんかあったの?」



ディアッカも同じことを感じたのか問いかけるが、ニコルは“何でもないんです”と冠りをふった。



「ラスティたちこそ何かあったんですか?」

「あっ、そーそー実はさ、

が誰にバレンタインチョコを渡すのか調べてるんだ!」

「貴様もしや貰ってないだろうな!!」



俺とディアッカがたじろぐほどの勢いで背手名に割って入ったアスランとイザーク。そんな2人にニコルは呆れるかと思いきや“フッ”っと渇いた微笑を浮かべて手を差し出した。その上にちょこんと乗せられているのは一つのチ●ルチョコ。



「僕、ちょっと切なくなりました・・・」





TARGET3.ミゲル・アイマン



「やっぱりミゲルじゃないですか?」



これまた仲間に加わったニコルの言葉で次の標的はミゲルに決まった。
ミゲルは面倒見もいいし2人とも(特によく懐いているから今度こそ正解かもしれない。



「お前ら勢ぞろいで何やってるんだ?」

「あ、ミゲル!ミゲルを探してたんですよ」

「ふーん?何かあったのか?」



ミゲルを探して通路進んでいると探していた本人から呼び止められた。
説明をイザーク、アスラン、ニコルの3人に任せて後方で眺めているとニコルが何かを持っていることに気がついた。あの、今日一日で何でも見た包みは・・・



「おいっ!ミゲル、その手に持ってるのって・・・」

「ああ、チ●ルチョコ」



“ホラ”と言って掲げられたそれにみんなの動きが止まる。



「ミゲル、それってからか?」

「ああ。“バレンタインおめでとー”ってさ。新手のギャグ?」







「ミゲルも違うとなると、後他に誰かいます?」



3つのチ●ルチョコを前にして俺たちはお手上げ状態だった。
もうこれ以上あいつらがチョコを渡すような相手は少なくとも俺には思い浮かばない。



「クルーゼ隊長とか。・・・な〜んてあるわけな、」

「「「それだぁっ!!」」」

「え?」



軽い冗談のつもりで言ったら全員賛同して走り出してしまった。
え?マジで?





















30分後、俺たち6人はとぼとぼという表現がこれほどしっくりくることは無いだろうという調子で通路を進んでいた。もちろんクルーゼ隊長はハズレで、他にも散々回ってみたけれどビンゴに突き当たることは無かったのだ。



「マジ誰なわけ・・・」

「くそぉ、すっきりしない!」

「全くだ。珍しく意見が合うな、イザーク」

「僕も同意見ですよ」



ピンク色の空気が漂う中、焦燥仕切った顔で歩く俺たちの耳に軽い足音と聞きなれた少女の声が届いた。こんな状況に陥る原因となっただ。



「あー、いたいた。みんなどこに行ってたの?」

「凄い探し回っちゃったわよ」

「え?どうゆう・・・」

「そんなこといーから、早く早く!!」



わけも分からず俺たちはに引っ張られていくYことになった。
全然意味も分からない常態で歩かされているのだけれど、俺たちの表情はさっきと一変して明るくなって足取りも軽い。どうしてか、なんて愚問で。それはきっと2人の楽しそうな笑顔、それから仄かに漂う甘い甘い香りのせいだ。



?コレは一体どうゆうことだ?」

「いいから着いて来て」

、どうしたんだ?」

「着いてからのお楽しみだよ、ほら」



そう言って到着したのは2人の自室。



「早く、入って入って」



優に柔らかく促されて足を踏み入れた瞬間に鼻をくすぐるのはチョコレートの香り。
多彩で多量なチョコレート菓子で溢れたその空間は、



「みんなに感謝と友情を込めて」

「あたしとからのチョコレートパ−ティーよ」



疲れ切った俺たちの肺とか腹とか、胸だとか。とにかくいろんなモンを一杯に満たしたんだ。



「ありがとう、

「あ、ありがとう」

「やったぜ、食っていいの?」

「おいしそうですね」

「サンキューな」



ああ、もう本当に、



「最高っ!」



チョコレートは甘くて、お腹はいっぱいになって、みんなも俺もすっげぇ笑ってた。





愛を叫ぶこの日になんだかよく分からないものを叫んでしまった俺たちだったけど、それだってやっぱり俺たちが青春を謳歌するには重要な こと なんだ。